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ふと読んだ本から拾ったネタがとても面白かったので一気書きした後で資料探した馬鹿は私です。
微妙に不正確なところもあるけど突っ込まないでください!

戦争ネタですが、戦闘シーンなんかはありませんのでその辺は大丈夫だと思います。
英と米、そして仏。








『六月の秋の歌』



秋の日の
ヴィオロンの
ためいきの……

「…………マジかよ?」
ラジオから聞こえるその声に、彼は呆然と呟いた。


雨が降っている。ふたりは灰色の世界を眺めていた。どれほど科学技術が発達してもこればかりは人力ではどうしようもない、ただ暗い空を見上げることしかできなかった。
「雨だね……」
「………」
「よく降るねえ」
「…………」
「昨日も雨だったよね」
「……………」
「明日も降るのかなあ……」
「………っやかましい!! 見りゃ分かるんだよんなこたぁ!!」
「だってさ、こう毎日雨じゃ気が滅入るよ。君んち大丈夫? この島うっかり沈んじゃったりしない?」
「喧嘩売ってんのかこの野郎……」
「そもそも何だってよりによってこの時期この場所で雨が続くんだよ。それこそ喧嘩売られてる気分だよ」
「うるさい。愚痴ったって天気は回復しないんだから黙ってろ」
「………むー」
アメリカは教師に叱られた小学生のように口を尖らせて黙り込み、イギリスは再び雨に覆われた世界を睨みつける。
報告があったのはそのときだった。

「晴れるのかッ!?」
「は、はいっ!!」
掴みかからんばかりの勢いで聞き返された気の毒な士官は、それでもきちんと己の任務を全うした。
「わ、我が大英帝国空軍気象予報室は、ドーヴァー海峡方面に急速に近付く前線を確認しています。この影響で、天候は一時的に回復すると見込まれます。その後再び悪化するでしょうが───」
「確かなんだな? いつ!?」
「6月6日、早朝───短時間ですが、計画地域での航空機離着陸は可能になると考えられます!」
イギリスとアメリカは顔を見合わせた。報告の意味するところはお互い口に出すまでもなく十分に理解している。チャンスだ。またとない、これを逃しては二度と掴めない絶好の機会だ。幸運の女神の前髪が今目の前にある!
「イギリス───」
「できることなら確実に晴れるという確証が欲しいが───いや、逆にその方がドイツを油断させられる、か……」
「条件的にこれ以上延期できないんだ、今しかないよ。確かに危険はあるけど……やろう、絶対に上手く行くよ!」
「ああ。───うちの情報操作に踊らされて、ドイツの野郎は上陸作戦があるとしたら拠点はカレーだと思い込んでる。ノルマンディーの防御は比較的薄いはずだ。よし……、ヨーロッパをクラウツの手から取り戻すぞ。これより、オーヴァーロード作戦を実行に移す!」
頷き合う。全ては動き出した。
各国の軍人たちが慌ただしく動き回る中、アメリカはふと、イギリスが小さな声で口ずさむのを聞いた。
「秋の日の ヴィオロンの ためいきの───」
フランス語の詩だった。

「───身にしみて ひたぶるに うら悲し」
言葉にならない高ぶりが全身を支配する。
ヴェルレーヌの『秋の歌』、この国で知らぬ者のない大詩人の、そのまた代表作のひとつ。物憂くもしんしんと心に染み込む、宝石のような言葉の連なり───だが、今このラジオから流れる朗読は、ドイツに蹂躙された彼らにとってそれよりもさらに大きな意味を持っている。
過去何百年という長い時間をいがみ合ってきた、敵に回すと死ぬほど厄介だが味方に付ければこの上なく頼もしい、心底ムカつく隣国。その声が、耳元ではっきりと聞こえた。
『今から助けに行く』

雲が切れる。闇色の夜空に星が瞬く部分が、段々広くなっていく。
「晴れるよ……!」
「見りゃ分かるんだよそんなこと。よし、当たったな予報……さすが俺!」
イギリスの緑の瞳が、夜の中でその星々よりも鮮やかに輝いて見えた。
「……イギリス」
「あん?」
「君、さっきから何だかやたらと楽しそう……っていうか嬉しそうじゃないかい?」
「ああ、そりゃ嬉しいさ。これでようやく、クラウツの芋野郎に吠え面かかせてやれるんだぜ。ついでに、あの早々にボロ負けして降伏しやがった役立たずで足手纏いのヘタレワイン野郎に思いっきり恩売っていびり倒してやる! とりあえずどさくさに紛れて2,30発殴ってもいいよな!?」
「…………いやそれはダメだと思うよ!?」
なにげに味方に対する言い種の方が酷くないだろうか。というか、彼らの関係から考えると本気でやりかねない。さすがにやめてもらいたいのだが。
アメリカの危惧をよそに、イギリスの瞳は真っ直ぐに闇に沈む対岸を見つめている。
「行くぞ。今このときに空が晴れたんだ、神は間違いなく俺たちに味方してる。勝つのは俺たちだ」
「……ああ!」
飛行機が飛び立つ。
歴史上で一番長い一日が、始まろうとしていた。

<了>


『史上最大の作戦』(原題:"The Longest Day"。邦題も良いが原題が素晴らしい)ネタです。作戦名、「オーヴァーロード作戦」。でかく出たなあ……。しかし「史上最大の作戦」とはフカシではなく、本当に人類史上最大規模の作戦だったそうですね。願わくばこういう記録は永遠に破られませんように。
ノルマンディー上陸作戦は続く雨の中ほんの束の間訪れた晴れ間を突いて敢行されたと読んで一気書きしました。
ヴェルレーヌの『秋の歌』は、この作戦決行をフランスの対独レジスタンスに伝える暗号でした。BBCで放送したっていうんだからつまりこういうことだよね!(殴) 上田敏の名訳を拝借しています。
めりかがあたかも常識人のようになったことに自分でびっくりです。(撲殺)


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