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暑いですね・・・。
分かっています。夏は暑いものです。暑いから夏と呼ぶのです。分かってるんです理屈の上では!
でも暑いんだよ馬鹿野郎。セミはうるさいし。

というわけで・・・といっても何ひとつ繋がっていませんが、夏のお話。

とうとう会話文ですらなくなりました。いや、割と好きなんですけどね、こういう書き方。
短くないとできない形式だし、一度書いてみたかったのです。





  『パッドソーニェチニック』

 綺麗でしょう? 僕の花だよ。
 うん。大好きなんだ、だってすごくあったかい色だから。丸くて、大きくて、金色で、お日様みたいだよね。学名もそのまんまだしね。僕んちではちょっと違う名前だけど、どこの国でもそんな感じの名前じゃない? みんなそう思うんだね。 
 今年はいっぱい咲いたなあ。嬉しいよね、大好きなものがいっぱいあったら。
 お日様もこれくらいたくさんあったらいいのにね。そしたら世界中、もっとあったかいのに。
 ───それは困る? あはは、やっぱりそう? でもそれって、元々あったかいところに住んでるからそう思うんじゃない?
 僕は欲しいな。昔から欲しかった。ねえ、ひとりにひとつ、お日様があればいいのにね。そしたら、もっと……。
 ………うん。分かってるよ、そんなの無理だってね。お日様はひとつしかないんだ。分かってる。でも、花はいっぱい咲くでしょう。だから大好きなんだよ。

 ねえ、知ってる? ギリシャ君の家の伝説。
 昔ね。お日様に恋をしちゃった女の子がいたんだって。だけどお日様は空の高い高いところにいるでしょう? その子が地上からじっと自分を見ていることなんか気付いてくれなかったんだって。
 どんなに好きでも絶対に分かってもらえなくて、それでも好きで、その子は毎日毎日空を巡るお日様を見つめ続けることしかできなかったんだって。少しずつ動いていくお日様を、一日中追いかけて。
 そしてね……、いつの間にか、その子の姿は花に変わっていたんだって。大好きなお日様にそっくりな、金色の花に。
 花になって、今でもお日様を追いかけてるんだって。太陽のある方向を向き続けるんだって。

 可哀想、だよね。お日様は平等だから、たとえ好きですって伝えることができたとしても、自分だけを照らしてくれるなんてあり得ないのに。そんな遠い相手を好きになっちゃうなんて、可哀想すぎるよね。
 でも……その子は、不幸だったのかな?
 振り向いてもらえないって分かってる相手を好きになって、永遠に見つめ続けるって、結構幸せじゃないのかな。よく分からないけどね。
 ……やっぱり、可哀想? そう、なのかな。……そうだよね、誰かを好きになったら、そのひとにも自分のこと好きになって欲しいよね。何にも分かってもらえないままなんて、哀しいよね。
 ねえ、じゃあどうしたらいいんだと思う?
 手の届かない相手を、それでも好きになっちゃったら、どうしたらいいの?
 ………その子は、思わなかったのかな。高い高いところにいるお日様を、何とかして自分のところまで引きずり下ろしたいって、思わなかったのかな。僕は───
 僕なら、どうしたいだろう。ずっとずっと、ただ見つめてるだけの方がいいのかな。それとも、何とかして自分のそばに来てもらおうとする方がいいのかな。分かんないや。

 分からないけど───、でも僕は、少しだけその女の子がうらやましいな。
 だって、その子はもう永遠に、お日様を見つめていられるんでしょう? 他のことは何にも考えずに、ただ好きだっていう気持ちだけになって、想い続けていられるんでしょう? 話したいとか振り向いて欲しいとか傍にいたいとか好きになって欲しいとか、そんな考え出したら自分が辛くなっちゃうような気持ちはもうその子にはないんだよね。
 花になって、その子はお日様のものになれたんだ。だからこんなに綺麗に咲くんだよね、きっと。
 うらやましいよ。僕もそんなふうになれたらいいのに。

 ───え? ああ、分かってるよ、もちろん。僕は生きてるんだもんね、あれだけいろんなことがいっぱいあって、消えてもおかしくないことだって何度もあったのに、今でも生きてるんだもんね。
 分かってるよ。そもそも伝説なんだから、本当にそんなふうにはなれないことくらい分かってるよ。
 それでも……そんなふうに誰かを想えるように、なってみたいよ。
 ……無理、なんだろうけどね。難しいよね、誰かを好きになるって。すごく難しいよね。ただ好きだってだけじゃ、どうしてもいられないもんね。
 仕方ないのかな。それが生きてるってことなんだよね、きっと。


 ───ねえ。この花、気に入った?
 よかったら持って帰ってよ。うん、いいよ、いっぱい咲いたし。え? ああそうか、あはは、そうだね、飾るのは大変だよね。大きいから。元々種を採るために栽培されるようになった花だからね。うん、そうなんだよ。油も取れるし、そのまま食べても美味しいんだよ。
 ああ、じゃあ、種を持って帰る? そうしてよ。食べてもいいけど、蒔いて育ててみてよ。
 夏になったら庭がお日様でいっぱいになるよ。ね、すごく綺麗だからね、楽しみにしててね。

 ……ねえ、そうなったら───
 見に行っても、いいかな?




 タイトルは「太陽のもと」の意味。ロシア語でひまわりのことです。学名のHelianthusはまんま「太陽の花」。英語でもそうですし、日本語でも向日葵と書きますし、大抵の言語で太陽に関係のある名前で呼ばれているようです。
 ひまわりの原産地は北米大陸で、ヨーロッパに持ち込まれたのは16世紀、持ち込んだのは例によってスペイン親分です。なので、ギリシャ神話にある話は実は後世の捏造なのですね。ヘリオトロープにそっくりな話がありまして、それと混ざったんじゃないかという気がします。

 ところでこれ、話し相手は誰でしょう?
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