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・・・が言語によって全然違う響きになるというのはヨーロッパ史の面白いところだと思います。
シャルル・マーニュとカール・デア・グローセが同じ意味だって、言われてもなかなか納得できませんよ。
とりあえずドイツ語だと武骨な響きでフランス語だと一転やわらかーくなるのが何とも言えないですね。ちなみにイギリスは関係ないけど、上の名前、英語で言えばチャールズ・ザ・グレートですね。


今書いているリクエスト第四弾が何だか暗い話になりそうなので、息抜きに短文投下。
このネタが息抜きなのかとか言わない方向で。
・・・ラテンな親分が書きたかっただけです、多分。






『女神の名前』

「あー………何かもう、信じられへん……」
ボロボロの格好で仰向けに転がったまま、妙に陽気な口調でスペインは呟いた。
「何だ? 余裕ありそうだな、まだやるか?」
「無理やって。ほんまお前、とんでもない奴やなあ……」
思い切り見下してやってもへらっとした表情は変わらなかった。が、どうやら動けないらしく、立ち上がろうとする気配はない。
「あーもうほんま無茶苦茶もええとこや。火ぃ付けた船突っ込ますなんてやるか普通……何考えてんねん」
「お前を倒す方法に決まってるだろ」
「うっわかっこいー。さすが海賊は言うことが違うわー」
「はっ、どんな手使ったって勝てばこっちのもんなんだよ。残念だったな、無敵艦隊はドーヴァー海峡の藻屑だぜ」
「なんやねんその無敵艦隊って……人んちの海軍にイヤミったらしいあだ名つけんな」
スペインは口をとがらせる。口調は余裕ありげだが、声はさすがに弱々しい。無理もないだろう、負けるはずがなかったご自慢の大艦隊が、辺境の小国に過ぎなかったイングランドに完膚無きまでに敗れたのだ。
「───イングランド」
背後からかかった女性の声に、イングランドは反射的に振り返って跪いた。スペインが目を見開く。
「よくやってくれたわ、イングランド」
「御心のままに」
女王は恭しく差し出された手の甲に口づけるイングランドに微笑みかけ、さらにスペインを見やった。
「フェリペ様にお伝えなさい。わたしも、わたしの国も、決してあなたのものにはなりません、と」
「………」
「頼みましたよ」
完全に命令の口調でそう言って、彼女は悠然と身を翻した。目だけで見送ったスペインは、その姿が消えるのを待って思いきり溜息を吐いた。
「……あー、お前がここまでやったんはあの上司のためかー。確かにすごい女やんなー……なあ、前の上司はもうちょっと何て言うか、かわいげのある女やなかったか?」
「そりゃお前にとってはだろ。メアリは元々、母親からしてお前んちの出だし」
イングランドの前女王メアリは、母親がスペイン王女のカトリック教徒で、自身の夫は今のスペインの上司と、あからさまにスペインびいきだった。その母親が離婚されて幼い頃から苦労したりと、イングランドにいい感情を持てなかったこともあるだろうが。
だが、今の彼女は───
スペインは笑った。
「つくづくとんでもない女やな。うっかりしてたら惚れてまいそうや。……つか、あれマジ好みやわ」
「何言ってんだ、お前の好みは幼児だろ」
「ちょ、不名誉なデマ流すなや! ロマーノは別、あの子は特別ですー。俺はああいう女が好みやねん。ああいう賢くてとことん気ぃ強い、きついくらいの女。……イサベル思い出してな、何とも言えん気分になるんよ」
「ああ───」
「あー、ほんまもろ好みやわ、あの女。ええよなー、ああ、早いうちにもっと根性入れて口説き落としとくんやった。そーいえば名前も同じやな」
「ふざけんな、振られたくせに。絶対やらんぞ」
「……分かってるって」
スペインはもう一度、いっそ清々しげに笑った。
「───やってお前、大きなったもんな」
「……え?」
イングランドは虚を突かれて聞き返した。スペインは一瞬、子どもの成長を見守る親戚のような表情になった。
「気付いてないってことはないやろ。あの女が即位してから、お前めちゃめちゃでかなっとるやん。ここ数十年でやで? そんな上司、今になって奪えるわけがないわ。───あのとき、そこまで見通せんかった俺の負けや」
「…………」
「あの頃のお前は、せいぜいフランスへの牽制くらいの利用価値しかなさそうやったもんなー。あの女もあそこまでの玉とは思わんかったしな。惜しいことしたわー……でもまあ、しゃあないな」
「……ふん。目の利かねえ奴だな」
「ははは。全くや。───でも、このままでは終わらさんで?」
「はん、そりゃこっちの台詞だよ負け犬」
せいぜい傲然と、イングランドは言い放つ。上司ほど堂々と自然に言えたとは思えなかったが、それは彼の矜持と、彼女の存在に裏打ちされた確かな自信の言葉だった。
「イサベルがどれだけ偉大でも、その女は過去の人間だ。今の天佑は俺に───エリザベスにある。この戦いがその証だ、思い知っただろ」
「……ちょっと納得しそうになるから怖いなあ。あの女やし。でも、そうそう思い通りには行かさんで、お前んとこの財布、相当すきま風吹いてるやろ」
スペインはようやく身を起こした。
静かに、けれど鋭くイングランドを睨み据えるその目には、欧州最強を誇る海上覇権帝国の言いしれぬ迫力が確かにある。数十年前までの自分は、それを避けるためにこそあらゆる手段を尽くていた。だが。
イングランドはその敵意のこもった眼差しを正面から受け止めた。
「───どうとでもしてみせるさ。幸運の女神はこっちについてるんだ」
微塵の疑いもなく、そう信じていた。





アルマダ海戦なのに妙にのんびりしているのは何故だ。主な原因は親分の口調にある気がする。
イギリス…というか当時はまだイングランドですが、彼は間違いなくエリザベス一世の時代に一気に急成長してると思います。何でも良いですが私はこの人好きすぎです。
スペイン親分は気の強い女の子が好きな気がするのです。イサベル様は間違いなく、彼の永遠の女王だと思います。
ちなみにタイトル、「女神」を「レイディ・ラック」とでも読んでいただけるととても嬉しいです。あんまり意味ないけど。
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